足のコラム 弐

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普通の靴が合わない

「普通の靴に当たって痛い」とは、お客様からよく耳にする訴えである。しかし、お客様によって「普通の靴」は千差万別である。スニーカーからコンフォートシューズ、パンプス、ハイヒール、サンダル、ミュールまで、すべて「普通の靴」なのである。

したがって最初にはっきりさせなければならないのは、お客様の希望する「普通の靴」が何なのかである。普通靴が履ければよいと言っても、お客様の中には、パンプスが普通の靴の最低限になることも、覚えておかねばならない。

「普通の靴」が当たって痛いのは、「普通の靴」が「普通の足」に合わせて作られているからである。外反母趾の足は普通でないから当たる。外反母趾は第1中足骨が病的に外反しているから、足長と足幅の比が、普通の足のバラツキの範囲に収まらない。JIS規格規格では、ある足長であれば、3mmずつ大きくなると、2E、3E,4E、F,Gとなり、小さくなればD,C、B,Aとなる。また同じEでも、足長が5mm伸びるたびに3mm広がる。すなわち足囲は25.5A、25B、24.5C、24D、23.5E、23EE、22.5EEE、22EEEE、 21.5F、21Gと同じになる。

普通に売っている女性靴をEとすれば、Gでやっと当たらない21cmの足長の外反母趾の人のサイズは23.5Eで、2.5cmも大きい靴を買う事になる。そんな大きい靴を履くと、靴が脱げないように趾を曲げて頑張るので、ハンマートウになる。そのうえ、折角あたりが少なくても、靴の中で足が泳いで、擦れて炎症を起こす。

反対に、最近の若い女性に多く見られる、長くて狭い足も合う靴がない。25Bの足は23.5の靴には痛くて入らない。泣く泣く25Eの靴を履くことになり、これまた脱げそうになるからハンマートウが増える。

市販の靴が合わない

足囲サイズEがもっとも多い中心部なのだから、Eの靴が最もよく合う確率が高く、一番売れるはずである。しかし、広めの靴は無理して履けても、狭めの靴は痛くて履けない。だから、Eの足の人は気に入ればEEの靴を履くが、EEEの人は気に入ってもEの靴は履かない。極端なことを言えば、EEEの靴はEEEの人だけではなく、EE、E、Dの人も買ってくれるから、メーカーは「足に優しい」と広めの靴を作りたがる。

もっともファッション性からいえば、狭めの靴が好まれるから、妥協の産物として、男性ではEEE,女性ではEEの靴が多い。しかし、それでも外反母趾の足囲は入らないから、大きい靴を履くことになる。

JIS規格では便宜上、足長と足囲でサイズを決めているが、当たり前の話として普通の足といっても、この二つの数字だけで、合う靴が選べるはずがない。靴は曲面で形成される立体だから、基となる木型(ラスト)を作るためには、何十箇所も採寸する必要がある。正確にJIS規格を守ったとしても、たった二つの数字で表すのだから、同じ表示でもメーカー、ブランドが違えば、JIS規格以外のすべての寸法は異なるといってよい。そのJIS規格の二つの数字だって、日本特有の足入れサイズだから、25といっても24.5と25.5の間、EEといってもEとEEEの間程度の意味しかない。だから十人十色どころか、人それぞれ微妙に違う足でも、普通の足ならば探せば合う靴が見つかる可能性は大きい。

市販の靴は何千、何万と作られていると言っても、数多く複製された同じラストから作られる「普通の靴」であり、「普通の足」のための靴である。規格表の中でよく売れるサイズの範囲をスイート・ポイントと言うそうだが、そんな足長、足囲を持った人は、靴を探す苦労はないが、その範囲から外れた人は急に難しくなる。

外反母趾の方が、たまたま当たらない幅広の靴を見つけても、市販の靴はその幅の普通の人のラストで作られた靴だから、何十箇所の寸法の一つがあっただけで、それ以外の寸法が合うはずがない。

外反母趾用の靴とは

最近は幅広のコンフォートシューズが足に優しい外反母趾用の靴として売られている。しかし、売る方も買う方も、なぜ外反母趾用なのか分かっていない。「外反母趾になりにくい靴」「外反母趾が治る靴」「外反母趾でも痛くない靴」挙げ句の果てには「外反母趾にとにかくよい靴」と、何がよいのかよく分からない。

混乱の原因は、外反母趾でない人が履いて外反母趾になりにくい靴と、 外反母趾の人が履いて治る、または進行が防止できる靴が、ごっちゃになっているためである。そのうえ、外反母趾の人が履いて痛くない靴が、外反母趾を治す靴と誤解されていることも、 混乱に拍車を掛けている。

言葉の使い方から言えば、外反母趾になりにくい靴を、外反母趾用の靴と呼ぶのはおかしい。残るは、 履けば外反母趾が治る靴か、外反母趾でも痛まず履ける靴である。残念ながら外反母趾用の靴と言っても、履いただけで外反母趾が治ったり, 進行が防止できたりする市販靴はない。原理的には靴型装具と同様に作れば効果があるはずだが、外反母趾の足に合う靴さえ作れないのに、積極的に介入してよい方向に趾を曲げる靴が、薬のように大量生産できるはずがない。結局残るのは、外反母趾の人が履いても痛くない靴である。

外反母趾


靴の幅が、足の幅より広ければ、外反母趾でも痛くない。前述したように、普通の足用のラストで幅の広い、趾が当たらない靴を作れば、長すぎて弊害が出る。しかし、必ず売れるならば、24EEという売れ筋でなくても、23Gという超幅広の足に優しい靴を作ることは可能である。実際に23EEEEと表示されたコンフォートシューズを目にしたこともある。これこそ外反母趾用の靴と言いたいところだが、全体的に幅広すぎて、中足骨や踵骨をサポートすることができない可能性が高い。

外反母趾のように第1~5中足骨の中足骨間角 (IM角) が拡大して開張足になった足のラストではない。だから、外反母趾の人が痛みなく履ける市販の靴は、ボールガース (足囲)がピッタリだとしても、それ以外のウエストガース、インステップガース、ヒールガースすべてが広すぎて、まったくサイドの支えのない靴になる。

それでなくても開張足になりやすい外反母趾の人が、このような外反母趾用の靴を履けば、IM角の増大を招き、外反母趾は進行して、また当たることになる。

真の外反母趾用の靴

では、外反母趾患者が履いて痛みがない市販靴、外反母趾の進行を防止する市販靴はできないのだろうか。原理的には、第1中足骨のIM角を狭め、母趾のMTP関節の内側が当たらない靴を作ればよい。シューフィッターにボールガースの代わりにウエストガースを測ってもらい、その足囲と自分の足長に合う靴を出してもらい、痛いのを我慢して試し履きし、母趾の付け根が当たる以外はピッタリ合った靴をまず選ぶ、そして, お金を払った後、足に当たるところに印を付け、スプレッダー (球環鋏)で思い切って押し出してもらうとよい。
とは言っても、ある意味では靴を壊すことになるので、対応してもらえる靴屋やシューフィッターは少ない。始めから、母趾の付け根に当たる部分が広がりやすくできていればよいのだが、そのような靴を見つけるのは、至難の業である。

外反母趾の靴については下記を参照にしてほしい。


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